オランダ南部の小さな町バーヘン・オプ・ゾーム(Bergen op Zoom)の近郊にある、ちょっと不思議な橋モーゼスブリッジ(Moses Bridge)に行ってきました。
その名のとおり、聖書に登場する「モーセの奇跡」にちなんで名付けられたユニークな橋。
モーセが海を割って人々を導いたというあのエピソードのように、水面を左右に分けて通るこの橋では、“水を割って歩く”という不思議な体験ができます。
実際にその場所に立つと、まるで聖書のワンシーンに入り込んだような気分になりました。
モーゼスブリッジとは?
モーゼスブリッジは、オランダの北ブラバント州にあるデ・ローフェレ砦(Fort de Roovere)という要塞の堀に設けられた木造の歩道橋です。
17世紀に築かれたこの要塞は、かつての軍事防衛ライン「水の線(Waterlinie)」の一部でした。湿地帯を生かした防衛戦略の跡地で、現在は自然と歴史が融合した観光地として整備されています。
橋の設計は2011年、オランダの建築事務所 RO&AD Architecten によって手がけられました。掘割の水面すれすれに作られているため、遠くから見ると橋が“消えて”いるように見えます。そして近づくと、なんと自分が水の中を歩いていくような体験に──。
デザインと環境への配慮
この橋の最大の特徴は「堀の水を割るように歩く構造」。水位とほぼ同じ高さにあるため、視覚的には水中を進んでいるように見えるのが面白いところ。
素材には防腐処理を施したアコヤウッド(Accoya wood)というサステナブルな木材が使われていて、湿地の環境にも優しく、長持ちする工夫がされています。
また、橋の形が低いため景観をほとんど邪魔せず、要塞の歴史的な雰囲気を損なうことなく新しいデザインが共存しています。自然保護と歴史保存、建築美のバランスが素晴らしい場所です。
展望塔と公園
モーゼスブリッジのすぐそばには展望塔(Pompejus Tower)があります。
高さ約25mの木製タワーで、階段をのぼると、バーヘン・オプ・ゾームの町や砦を見渡せる360度のパノラマが広がります。
この塔は、モーゼスブリッジと同じ建築事務所RO&AD Architectenが手がけたもの。
歴史ある要塞に、現代的な木のデザインが美しく溶け込んでいて、建築好きにも見どころのあるスポットです。格子状の外観が印象的で、軍事遺構と自然をつなぐランドマークとしても注目されています。
展望塔のまわりは公園として整備されていて、芝生のエリアや水辺の遊歩道もあり、ピクニックや散策にもぴったり。春から夏にかけては、緑が気持ちよくて、のんびり過ごすのに最高のロケーションでした。
デ・ローフェレ砦の入口にはカフェもあって、ちょっとひと休みするのにも良さそうでした。橋を見たあとに、ここでお茶してゆっくり風景を楽しむのもおすすめです。
アクセス:駅からモーゼスブリッジへ
最寄り駅は Bergen op Zoom(バーヘン・オプ・ゾーム)駅。ロッテルダムやアントワープから電車で1時間ちょっとでアクセスできます。
駅からモーゼスブリッジまではバスまたは自転車での移動が便利です。
今回は駅でOV-fietsをレンタルして、自転車で向かいました。
5月は新緑がまぶしい季節。緑の香りを感じながら走る並木道は本当に気持ちよくて、晴れた週末はまさにサイクリング日和。自転車道はゆるやかなアップダウンが続き、のんびりと自然のなかを走るのにぴったりのコースでした。
途中で立ち止まって写真を撮ったり、鳥の声に耳をすませたり。そんな余裕のある移動ができるのも自転車ならでは。
片道およそ20分ほど。ほどよい距離感で、モーゼスブリッジへの期待感を高めてくれるアプローチでした。

帰り道に立ち寄った牧場でひと休み
帰り道、ちょっと寄り道して立ち寄ったのがBoerderijwinkel den Hofという牧場兼ファームショップ。ここがまた素敵でした!
牛舎がすぐそばにあって、柵越しに牛たちを眺めることができます。
お店の中では、自家製の生クリームやチーズ、ヨーグルト、バターなどが販売されていて、お土産にもぴったり。残念ながら牛乳は売り切れでしたが、それでも見応えありでした。
そして何より、ここのアイスクリームが絶品です。
おすすめしてもらったラズベリー味と、ミルクの味わいが濃いプレーンなクリーム(roomijs)味を食べましたが、どちらも濃厚で、フレッシュな素材の味がダイレクトに伝わってくる感じ。サイクリングの疲れが一気に癒やされました。
地元の人たちが次々とやって来る様子を見ても、きっとこの辺りでは人気のスポットなんだと思います。
駅前の街歩きもおすすめ
ベルゲン・オプ・ズームの街は小さいけれど、歴史を感じられる見どころがたくさん。橋の帰りには、駅前を少し散策してみました。
街の中心にあるマルクト広場(Grote Markt)は、石畳の広場に面したテラス席で、地元の人と観光客がゆったり過ごす雰囲気が素敵。天気が良い日は、ここでのんびりするのも気持ちいい時間です。
広場とその周辺には、雰囲気の良いカフェが点在していて、どこに入ろうか迷うほど。外の席に座って、人々の往来を眺めながら一休みするのもおすすめ。
宿泊するならここ、Grand Hotel De Draak。オランダ最古とも言われる歴史あるホテルで、レストランも併設されています。重厚な外観とクラシックな雰囲気が印象的でした。
聖ゲルハルドゥス教会(Gertrudiskerk)は、この街のシンボル的存在。塔に登れば、街並みを見渡すパノラマビューが楽しめるそうです。
マルキーゼンホフ博物館(Het Markiezenhof)は、ルネサンス様式の旧宮殿を活用した市立博物館。町の歴史や芸術作品の展示が充実していて、まるで複数のミュージアムを一度に訪れたような満足感。
中庭もとても美しく、この日はちょうど結婚パーティーが開かれていました。
監獄門(Gevangenpoort)はかつての牢獄跡。中に入ることができ、当時の暮らしぶりや歴史を垣間見ることができます。
アムステルダムからは片道2時間と、少し足を伸ばす距離ではありますが、思い切って行ってよかったと思える場所でした。
ずっと気になっていたけれど、アクセスが分かりにくくて後回しにしていた場所。でも、NSのサブスクと駅で借りられるOV-fietsを活用すれば、意外と気軽に訪れることができます。
モーゼスブリッジは、自然と建築が調和した美しさが際立つ橋。実際にその上を歩いてみると、“水を割る”という名のとおり、まるでモーセの奇跡のような体験ができました。
橋だけでも訪れる価値は十分ですが、せっかくなら街全体の歴史的な空気や、のんびりとした雰囲気もあわせて味わってみてほしいです。
“水を割る”不思議な橋、新緑の中を走るサイクリング、そしてとっておきのアイスクリーム。
春から夏にかけてぴったりの、ちょっと特別な日帰り旅になりました。
