美術館の集まるミュージアム広場に面している音楽堂のConcertgebouw(コンセルトヘボウ)は、オランダ語でコンサートホールという意味で、その名の通りアムステルダムの歴史ある音楽ホールです。
1888年にオープンしたコンセルトヘボウには音響設備の優れた4つの音楽ホールがあり、そしてロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の本拠地です。
創立125周年を迎えた2013年にロイヤルの称号を受け、ロイヤル・コンセルトヘボウとなりました。
そんなコンセルトヘボウが建てられるまでの前途多難、そして真似することができないデザインが興味深かったのでまとめてみました。
コンセルトヘボウの歴史
コンセルトヘボウが建てられる以前の1880年代初頭のアムステルダムには3つの音楽ホールがあったそうです。
しかし、1つは老朽化のため崩壊寸前…、1つは超小規模のホール…、1つは音響設備が最悪…っと、どれも欠点がある音楽ホールでした。
音楽好きのアムステルダムの市民は新しい音楽ホールの新設を行政へと依頼しましたが、要望を受け入れてはくれませんでした。
行政が動いてくれないので、自分たちで何とかしようと6人の市民を筆頭にコンセルトヘボウ協会を設立したのが今なおある音楽堂コンセルトヘボウの始まりです。
土地選び
コンセルトヘボウ協会が設立した当時、アムステルダムでは国立美術館(rijksmuseum)を建設中でした。
国立美術館の設計をしていた建築家カイペルスが、コンセルトヘボウ協会のメンバーの1人だったことから、建設地の交渉がスムーズに進み、あっという間に国立美術館の対面の土地を確保することができました。
ミュージアム広場を囲むように国立美術館、市民美術館、コンセルトヘボウの建設場所が決まりましたが、コンセルトヘボウ建設予定地は、実はその当時まだアムステルダム市ではありませんでした。( 1896年よりアムステルダム市に加わりました。)
音楽堂の建設
コンセルトヘボウ協会は1882年に株式会社Concertgebouwを設立し、建設準備が本格的に始まりました。
建設予算を株券の販売で集めようとしましたが、予算の半分くらいしか集まらなかったそうです。
そこで複数の建築家たちに用意できた額で2000人収容できる音楽ホールを設計してもらい、その中から選ぶことになりました。
最終的にオランダ建築家ファン・ヘントのデザインが選ばれ、すぐに建設が始まりました。(ファン・ヘントはのちにカイペルスとともにアムステルダム中央駅の設計しています。)
オープンまでの道のり
株式会社Concertgebouwを設立してからわずが4年、1886年に建物は完成しました。
ですが音楽堂はオープンすることができませんでした。
今も昔も建物を建てたり、新しい施設をオープンするには様々な許可が必要となります。完成した音楽堂もオープンするために「運河の埋立て、街灯の設置など」と周辺の整備を自治体から要請されたのです。
しかし予算カツカツで建設した音楽堂に、周辺を整備する財力は残っていませんでした。
この問題を解決するのに2年の月日が費やされ、グランドオープンしたのは1888年となりました。
初演コンサートは120人の管弦楽団と500人の合唱団により盛大に開かれたそうです。
建築様式
オランダ建築家ファン・ヘントのデザインは、それまで主流だった新古典主義(過剰な装飾性や軽薄さに対する反動として荘厳さや崇高美を備えた建築)と、この頃から流行り始めたネオルネッサンス建築(ルネサンス建築に基づきながら当時の荘厳さや各地の新しい建築方式を織り交ぜたもの)を融合した、威容ある外観が特徴です。
地盤の軟弱なオランダで巨大なホールの建設するには2186本の木杭をもって頑丈な基礎が築かれました。
それでも地盤沈下に悩まされ、建設から100年後の1983年に倒壊寸前の危機を迎えています。
その後の大規模改修工事によって新たに400本の金属杭が打ち込まれました。この時の改修工事でメインエントランスがモダンなガラス張りのデザインへと変更されています。
奇跡のデザイン
音楽ホールの内装設計をする上で大切なのは音の反響と残響です。
そのためステージと座席の配置、壁と天井の形状、仕上の材質まで計算してデザインするのが通常の音楽施設の設計です。
がしかし、建築家ファン・ヘントは音楽ホール設計のノウハウが皆無でした。そのため音楽ホールとしてはありえないデザインがされているのがコンセルトヘボウの特徴です。
建築家ファン・ヘントがデザインしたメインホールは、反響音がバラバラに散ってしまう直方体のホール形状、そしてこれまた反響音が他方へと反射する天窓を設けています。
反響音が計算されていないホールで演奏すると、演者は曲を合わせるのが困難となり、聴者は耳障りな残響音を感じてしまい、本来の演奏を聞くことができなくなってしまいます。
そんな絶望的なデザインの音楽ホール。がしかし、実際にオーケストラを入れて演奏してみると…、驚くことに素晴らしい残響効果が起き、誰もがビックリしたそうです。
2000人収容規模のホールの残響時間は2秒前後を目安にされており、このホールの残響時間2.8秒(満員時2.2秒)と演者も聴者も納得のいく最高の音を奏でるパーフェクトな音響設計になっていたのです。
なぜそうなったのか誰にも分からない、まさに奇跡と偶然の産物。後にも先にも真似できない異例なデザインでパーフェクトな音響設計を備えたコンセルトヘボウは交響曲を奏でるのに最高の音楽堂・世界ベスト3にランクインしています。
チケット
そんな奇跡の音楽ホールで最高の交響曲を体感できるコンサートチケットは公式ホームページより購入できます。
また近年は夏の終わりに1日限定でフリーコンサートを奇跡の音楽ホールで開演しています。実際に聴いて音楽の素晴らしさとホールの奇跡を感じてみてください。
また夏季を除いた毎週水曜日には無料のランチコンサートを開演しています。こちらのチケットは月初めに翌月のチケットを公式ホームページで販売しています。無料なので支払いはありませんが、人気なので即完売します。
ランチコンサートは小ホールで開かれます。こちらは奇跡のホールではありませんが、音響環境はバッチリです。30分ほどのミニコンサートなので服装など気にせず気軽に鑑賞することができます。