アムステルダム中央駅から東に2kmに位置するアムステルダム東部港湾地区には4つの人工島(埋立地)があります。
- KNSM(ケーエヌエスエム島)
- JAVA(ヤファ島)
- Borneo(ボルネオ島)
- Sporenburg(スポレンブルク島)
この4つの人工島は住宅地で観光・買い物エリアではありませんが、建築好きには楽しめる人気建築巡りスポットとなっています。
人工島の歴史
もともと貿易港として栄えたアムステルダム。現・東部港湾地区は、アムステルダムの主要な埠頭として19世紀末に整備されました。
埠頭から住宅地への再生
時代とともに貿易船が大型化すると、アムステルダムのアイ湾では大型船の受け入れが困難となり、主要な貿易港はロッテルダムへと移り変わりました。
アムステルダム東部港湾地区は埠頭としての役割を1960年代に終焉します。
東部港湾地区で建築巡り
役割を終えた埠頭は住宅地への都市再開発が決定され、高密度の住宅建設が計画されました。
埠頭はKNSM(ケーエヌエスエム島)、JAVA(ヤファ島)、Borneo(ボルネオ島)、Sporenburg(スポレンブルク島)と4つにエリア分けされました。
そして各エリアごとに1つの設計事務所がマスタープランをたて、そのアシストに多くの建築家が参加している壮大な都市計画となりました。
1990年から約10年で埠頭は見違えるように生まれ変わりました。
KNSM島(1989~1996年)
まず先行して策定されたKNSM(ケー・エヌ・エス・エム島)です。
KNSMのネーミングの由来は、ここが貿易港として栄えていた時代の貿易船舶会社Koninklijke Nederlandse Stoomboot-Maatschappij(Royal Dutch Steamboat Company)の頭文字を撮ったものです。
このエリアのマスタープランは、オランダの建築家ヨー・クーネン(Jo Coenen)が担当しています。
埠頭の中心にメイン通りKNSMラーンを設け、その両サイドに住宅棟が建ち並ぶ構成となっています。
住宅設計はヨー・クーネンの他に、オランダ建築家ヴィール・アレツ、ドイツ建築家ハンス・コルホフ、ベルギー建築家ブルーノ・アルバートと、ヨーロッパで有名な建築家たちによるものです。
KNSMは全15棟の中高層の団地エリアになっており、団地それぞれがユニークなデザインで存在感の強い建築物です。
個々の建物が個性的なので、1つの団地ごとにデザインが完結しているのが特徴です。KNSM島全体での建物と建物の繋がりが乏しく、閉鎖的なエリアでもあります。
マスタープランでの統一が測れなかったことと、そして各巨匠たちが個々に設計してしまったことが都市計画性を損なってしまったのかもしれません。(建物1つ1つはかっこいいです。)
日本の様な団地という住み方の概念がオランダにはもともとなかったこともあり、高密度な居住環境は受け入れられず、当初の販売は売れゆきが悪かったそうです。
JAVA島(1991~2000)
KNSM島のお隣のJAVA(ヤファ島)はアムステルダム中央駅や市街地にもっとも近い人工島です。
JAVA島のマスタープランはオランダの建築家ソールド・スターズによって計画されました。
ソールド・スターズは細長い形の人工島に4つの運河を通し、Java島を5つのブロックに分けています。
各ブロックごと中央に中庭、中庭を囲うように住宅棟、住宅棟の外周に道路を設けています。このブロックごとに中庭・住宅棟・道路と年輪状に構成される都市計画はアムステルダム旧市街の街並みと同じになっています。
<中庭>
<住宅棟>
<道路と運河>
ブロックごとの構成は旧市街と同じですが、住宅棟は複数の建築家により設計されてるために建物のデザインはとてもユニークで多彩です。
様々なデザインが混じり合っていますが、ベースとなるエリアの構成があるため、それぞれが違ったデザインでも統一感を感じる街並みになっています。
Java島は緑化計画も施されており、他の人工島よりテラスや公園で過ごす人々が多いのが特徴的です。
プライベート空間とパブリックエリアの関係性が上手に計画されており、活気や賑わいを感じるいるエリアです。
BorneoとSporenburg(1994〜1999)
Borneo(ボルネオ島)とSporenburg(スポレンブルク島) の2つの島はKNSM島とJAVA島の中高層集合住宅の街並みとは異なり、建築物の高さが低い低層住宅が並びます。
Borneo島とSporenburg島にはボートや小型船舶、ハウスボートも多く停泊しており、水辺がとても近くに感じられるエリアになっています。
マスタープランはオランダのランドスケープデザイン事務所West8のアドリアン・ヒューゼが担当しています。
2~3階建ての低層住宅がメインで計画されているため、都市計画で求められた住戸数をクリアするために公共の中庭や公園といった機能が省かれている、開けたスペースのない高密度な住宅地になっています。
それでも住戸数が足りなかったためか、数カ所にシンボリックな高層マンションがあるのも特徴的です。
旧市街の住宅群の中に教会があるような感じで、低層住宅群の中にランドマーク的な高層マンションが建っています。
各低層住戸は道路側のみが外と面していて、両サイドは隣の家と隣接しているというオランダスタイルの住宅デザインです。
道路からの外観はこじんまりとした住宅ですが、家の中に小さな中庭が設けられ採光と通風が取れるようになっていたりと奥行きのある住宅となっています。
このエリアは20組もの建築家が設計しており、全ての住戸が異なったデザインになっています。見た目はバラバラですが、モジュールやルールにより統一性を持たせた洗練された街並みです。
水辺に並ぶ住宅群はまるで現代版の運河の家。小さな住宅が高密度で隣接しているこのエリアはアムステルダム旧市街の街並みとの類似性を一番感じます。
水辺沿いの住宅には自宅のテラスで寛ぐ人たちがいるものの、共用の広場や公園がないので通りには人も少なく、閑静な住宅街の印象です。
あとがき
どの人工島も住宅地なので建物内に入ることはできませんが、周辺を散策することはできるので建築好きには有名な観光スポットとなっています。4つの人工島を案内してくれる建築ガイドさんもいらっしゃいます。
アムステルダム東部湾岸エリアは20世紀後半のダッチデザインを一挙に見ることができる建築スポットです。エリアが広いので自転車で周るのがお勧めです。様々な名建築を巡ってみてください。